レンズの素材・設計について

いざメガネ屋さんに行きメガネを決めると、「最初から屈折率問わず非球面レンズが付いている」メガネ屋さんを除いて、おそらく「レンズの種類はどうされますか」と尋ねられると思います。

レンズと一言で言っても多種に渡り、一言で「これがオススメですよ」と言うことはとても難しいです。
ですが、選ぶ際の目安はある程度説明ができます。

焦点の違い

メガネレンズはまず大雑把に、単焦点レンズと多焦点レンズに分かれます。

単焦点レンズ

光学中心(焦点)が中心に一点あるレンズです。
近視の人、遠視の人、老眼鏡に使われるレンズはすべて単焦点レンズです。

光心・光学中心が中央にある

多焦点レンズ

焦点が複数あるレンズです。
メガネ屋さんでは概ね「遠近両用レンズ」のことを指します。
(若い人向けに「リラックスレンズ」と呼ばれる、ユルい遠近両用のようなレンズもあります)

遠近両用レンズでは、丁度レンズの上の方に遠く用の度数が、下の方に近く(手元)用の度数が入っていて、下に向かって無段階にプラス度数になっていくレンズのことを「累進レンズ」と言います。

累進レンズの構造

 遠近累進レンズの欠点は、無段階で度数が変わっていく結果、図のように中心部はキレイに見えるものの左右の周辺部(斜線部分)は設計上キレイに度数が形成できず、ボヤけてしまう所です。

この周辺のボヤけ感をできるだけ少なくより良い設計にしたレンズほど値段が高くなります

遠近両用レンズでも、累進になっていないレンズもあります。
それが昔ながらの「バイフォーカルレンズ」です。
遠く用度数と近く用度数の部分が完全に分かれていて、見栄えはイマイチですが、累進レンズよりも遠くと近くがそれぞれ見やすくなります。
逆に言うと中間の度数がないので、その間の距離は見ることができません。

最近では「バイフォーカルを昔から使っている」というおじいちゃんおばあちゃんくらいしか買いません。ほとんどの人が見栄えのよい累進レンズの方を選んでいます。
(更に中間度数のあるトライフォーカルと呼ばれるものもあります)

近く部分は「コダマ」と言ったりします

カーブ設計の違い

単焦点・多焦点の違いとは別に、レンズ表面カーブ設計の違いがあります。

レンズ自体の発明は、紀元前「火をおこす道具としての発見」が最初で、その後9世紀前後に明確に視力補正道具として作られるようになりました。
おそらく最初は、ただ真ん中が出っ張っている透明のガラスや石で、光を集めて火を起こせる!字が大きく見える!という程度の認識だったのだと思います。

15世紀~17世紀ごろには、主にイタリア周辺で高度なレンズ加工ができるようになり、印刷技術の発展と共に「リーディンググラス」として需要が増えていきます。
おそらくこの頃から表面のカーブ(R)について色々と考えられ始めたのではないかと思います。

球面・非球面とはなにか?

大雑把な説明をすると、球面レンズのカーブは以下の図のようになります。
レンズの断面を見た時に、表と裏のカーブがそれぞれ大きさの違う真円のRになっています。

この組み合わせ差で度数が発生します。
レンズ設計の最初はこの「真円の組み合わせ」だったのです。

球面のプラスレンズ

球面のマイナスレンズ

マイナスレンズも理屈としては同じで、サイズの違う真円の組み合わせで設計がされます。

表面カーブが「」になっている為に、球面レンズと呼ばれます。

しかし球面レンズにはデメリットがありました。

計算上の度数は中央部分のみになり、外周に行けば行くほど実質的に度が強くなってしまい、外周部ほどボヤけ感(もしくは強く見える)が出てしまったのです。
これを「球面収差」と言います。

また、レンズ自体に厚みとカーブがあるゆえに、像が丸く変形して見えました。これを「歪曲収差」と言います。

収差は度が強ければ強いほど大きくなり、特にプラスレンズで顕著です。(その為、店頭に置いてある“非球面レンズの歪み比較デモ”ではよくプラスレンズが使われます)

多くの収差は非球面レンズにすることで軽減できる可能性が高いです。

しかし「眼自体が丸く旋回して見るので球面レンズの方が合っている」という考え方もありますし、慣れの問題もあります。
軽度な場合には球面レンズを勧めるメガネ屋さんもありますので、一概に「球面レンズの方が悪い」とは言えませんし、逆に「非球面なら誰でも大丈夫」とも言えません。

非球面レンズ

そのデメリットと、加えて「厚み」に関しても解決ができないかと考えられたのが「非球面設計レンズ」です。

以下の図では、黄色い線のカーブの方が、真円ではなく少し楕円のようになっています。また球面レンズと比べると、基本的にカーブ自体が浅くなっています
カーブを度数に合わせて細やかに調整することで、カーブの組み合わせによる度数誤差、収差が少なくなるように設計されたのが「非球面レンズ」です。

各レンズメーカーさんは、この「細やかなカーブの計算式」を公開されてはおらず(大事なノウハウなのですから当然です)、実際にはもっと複雑なカーブの計算をされているはずですから、こんな適当な楕円にはなっていないと思います。

この設計と製造に手間がかかる為、球面レンズと比べて価格が上がります。

また非球面レンズの特徴として、レンズ全体のカーブがユルくなることが挙げられます。球面レンズと比べると、レンズ自体を横から見た時に「真っすぐに近くなる」ということです。

非球面レンズが万能というわけではなく、球面レンズに対して絶対的に優位ということでもありません。
非球面→球面への変更で違和感がある人も、球面→非球面の変更で違和感がある人もいますし、逆に何も感じない人もいます。

脳は、送られてきた映像に対してキレイに見えるように上手く補正をします。
球面レンズは総体的に外周部の方が度が強くなり、中心部との誤差が生じますから、それに対しても脳は上手に補正をします。しかしそこから非球面に切り替わった時には、引き続き同じ補正だと誤差が感じ、しばらく違和感が続くということになります。

非球面レンズの種類

非球面設計には、この複雑なカーブ設計を「片面だけにしたもの」と「両面にしたもの」があり、それぞれ

外面非球面
内面非球面
両面非球面」と呼ばれます。

金額と収差のバランスは、屈折率にもよりますが概ね比例します。

球面レンズ 外面非球面レンズ 内面非球面レンズ 両面非球面レンズ
価格 とても安価 少し高め 高め かなり高め
収差 とても大きい 少なめ とても少なめ すごく少ない

どの設計を選ぶべきか?

レンズ自体の設計はどれが一番良いか?と聞かれると、両面非球面と言えるのは間違いないです。
ですがすべての度数の人が両面非球面を選ぶ必要は全くありません

両面非球面は、例えば-6.00より強い近視の人、+3.00より強い遠視の人、±2.00以上の乱視の人などにオススメです
逆にそれ以下の軽度の近視・遠視の人には外面非球面(片面非球面)で充分なことが多いですし、お店によっては軽度な近視の人には球面レンズを勧められることもあります。

眼の使い方は人それぞれなので、眼をよく動かして物を見る人にとっては外周部の小さい歪み感も気になるでしょうし、顔を動かして物を見る人にとってはよく使う部分は中心ばかりになるので設計を変えても違いがあまりわからないとなることもあります。

そのように個人個人で差がありますから、この度数だったらこの設計が良い、こっちで大丈夫と明言はできません。
ずっと両面非球面を使ってきた軽度近視の人が、外面非球面を使ってみた結果違和感が消えないということは、ままあります。逆もあります。

両面非球面レンズと厚み

球面レンズと非球面レンズを比べると、カーブの関係上、厚みは減ります。

球面レンズと外面非球面レンズどちらがオススメか?と言われると、フレームカーブに問題がなければ、多くの場合は外面非球面をオススメします。
ただし軽度の近視度数(-3.00程度まで)なら、球面レンズでも問題ないと判断する場合もありますし、その人のそれまでのレンズ遍歴にもよります。

そこから更に両面非球面で、もっとレンズ厚は薄くできるか?というと、外面非球面から両面非球面では「ほとんど変わらない」「軽度数だと外面非球面の方が薄くなることもある」となってしまいます。

つまり、厚みの為だけに両面非球面にするには、コストに対するメリットがほとんど無いと言えます。
厚みをできるだけ薄くしたいという場合には、片面非球面レンズで屈折率を上げる方が効率が良いです

両面非球面への変更については、あくまで「見え方の為」と思った方がいいでしょう。

素材の違い

レンズ種類が数多に渡るのは、設計の違いに加え「素材の違い」もある為です。素材とはここでは「プラスチック」を指しています。

光をどれだけ曲げられるかという数値を「屈折率」と言います。
数値が大きい方が、より強く光を曲げられます。

一般的なプラスチックレンズの屈折率は、1.50~1.76(世界最高)になっていて、基本的に高屈折率ほど価格が上がります

この値が高いものを、メガネ業界では基本的に「薄型レンズ」と呼んでおり、値が上がれば上がるほど「超薄型レンズ」「世界最薄レンズ」と強化されたりしていますが、どうも明確な表記の基準はないようです。

プラスチックを高屈折にする為に、プラスチックの組成を科学的に調整(化学合成)して作られています。言うなれば「色々混ぜて調整している」わけで、その為基本的には高屈折であればあるほど、透明度が下がり硬度が上がり比重が重くなる傾向にあります。

また高屈折素材になるほど、各波長にズレが生じたりもします。これを「色収差」と言います。
つまり、屈折率を上げた値段の高いレンズであればあるほど「良くなる」というわけではないのです。

現在流通しているプラスチックレンズの、素材と設計の組み合わせは概ね以下のようになります。

度数(±)
設計 屈折率 アッベ数 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
球面
非球面
1.50 58
球面
非球面
1.55 38
球面
非球面
両面非球面
1.60 41
球面
非球面
両面非球面
1.67 31
非球面
両面非球面
1.70 31
非球面
両面非球面
1.74 33
非球面
両面非球面
1.76 30

※ 屈折率1.50~1.55のレンズでのあまり強い度数は作られていないメーカーさんもあります。
※ -5.00~-6.00あたりで1.74以上の屈折率を使われることはまずないと思います
が、言えばやってくれないことも無いということで…(度数はあります)

青色枠は比較的オススメされる度数、黄色枠はあまりオススメできない度数です。
これはあくまで目安程度で、フレームの種類(メタル/セル)お店の方針客側の好みなどでも変わってきます。

例えば「-5.00のメタルフレーム」の場合、屈折率1.67の非球面レンズを使う場合もあれば、屈折率1.60、1.70の非球面レンズを使う場合もありますがどれも正しいです。

高屈折のリスクと、強い度数の厚みの問題、そして金額の問題を、どの程度に捉えるかで答えは変わってくるからです。

また同じ度数でセルフレームになった場合は、屈折率1.60で充分と判断することも多いです。これはセルフレームの方がリムが太く、レンズ厚があっても目立たず抱えられる為ですね。屈折率をひとつ上げると比重も上がるので重量面ではほぼ変わらないのです。

店舗による違い

メガネ販売は、フレームの価格に加えて前述通りのレンズ価格差がある為、価格設定のシステムが少しややこしいという問題があります。

大別すると、

A)最初の「標準レンズ」が付いていて、それ以上になると追加料金が必要なシステム
B)1.60~1.74非球面レンズを度数等に合わせて選択でき、両面非球面や遠近等で追加料金が必要なシステム
C)フレームとレンズが完全に別料金の昔ながらのセパレートシステム

という分類ができます。

「どのレンズが最初についているか」はお店によって違う為、何も知らないままメガネ屋さんに向かうと「レンズはこちらの方が良いですよ」と勧められても、それを選ぶべきかどうか一人ではきっと判断ができないでしょう。

ですが、「球面レンズ」「非球面レンズ」「両面非球面レンズ」という種類を知っておくだけでも、レンズの説明をされる時に怯まないのではないかと思います。
あとの数値である「1.55」「1.60」「1.67」といった屈折率は、ただの厚みの問題でしかありません。

2件のコメント

  1. 内面非球面設計のオーダーメイドレンズも増えてきている現在、両面非球面設計が至高のように書くのは消費者の利益にならないと思いますが、いかがでしょうか。

    1. 書き込みありがとうございます。
      両面非球面レンズを至高のもののようには書いていないつもりです(単純な比較だけの話におさえています)。
      オーダーメイドレンズは多くの消費者からすれば特別なものであり、それと比較すること自体がナンセンスだと感じます。もちろんそれを当然とするメガネユーザーはいますが、あくまで相対的な一般論としての掲示をしているつもりです。
      おっしゃっているお話を踏まえて、一部オーダーレンズを含めると単純な比較はできないという旨で書き換える方向でいかがでしょうか。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。