今現在では、眼の長さ(眼軸長と言います)は、可変であると考えられています。
ただし非可逆、大きく(長く)なりはしても、小さく(短く)することはほぼできないということです。
近視の度合いはおおよそ、角膜・房水(40D)+水晶体(20D)の屈折率に対する、眼軸長により決まります。眼軸長が長ければ長いほど、強い近視になるのです。
近視自体をものすごく簡単に説明すると、「近くを見るのが得意になる」状態。逆にどれだけ頑張っても、遠くは見えません。
近視は眼の奥行きが長い状態
もくじ
近視の直接的な原因とは
人の身体は精密機械の工場で作られているわけではありませんから、左右が非対称だったり、完全な丸ではなかったり、大きさが違ったりということが普通です。
同様に「眼の大きさ」についても、正視の形状を保って生まれてくるというわけではありません。基本的には多くの人が「少し遠視の状態」(=少し眼が小さい状態)で生まれると言われています。
眼そのものの成長は15歳~16歳前後まで進み、その間の成長期に大きさを整えていきます。
しかし中には、遺伝的要素・環境的要素含めた様々な理由により、近視になったり遠視になったりする人が現れます。
つまり「屈折異常」という状態は、生物としての人間の「環境適応・進化」……
例えば、「近方の作業が多い生活を送っているので近くが見やすくなるように」、「遠くをよく見る生活を送っているので遠くが見えるように」という「習慣に合わせた短期的な進化」という側面もあります。
その「短期的な進化の必要性」を認知する直接的な要素が、おそらくは「眼の調節具合」(あるいはその作用である毛様体筋の括約)ではないかと、今は考えられているようです。
「近視は身体の成長に伴って進む」と言われています。
実際に私meganeccoもそう説明します。
しかし、それも結局は「その人の環境に合わせて変化した結果として」、近視が進んだ(成長の為眼が大きくなった)ように見えただけ、というのが結論なのではないかと思います。
確かに、中高生でもほとんど度数が変わらなかった人も多数見ました。そういう人に対して「身体の成長に伴って進む」という説明は適用できません。
近視進行抑制の可能性
近視の人はアジア圏に多く、多数の国で近視抑制の試験的な実地が行われてきました。
日本も例外ではなく、現在でも眼科を持つ大学複数でのトライアルが行われていたり、先進的な眼科が適応外処方で対応したりもしています。
低濃度アトロピン点眼
最近の大学トライアル(平成28年頃から)にて、近視の小学生を対象に「眼の調節力を抑制することで近視進行を抑えられるかどうか」の実地が行われました。
眼の調節力を完全に奪う(麻痺させる)点眼薬がいくつかあります。
そのうちのひとつ「アトロピン」を長期的に点眼することで、眼軸の延長をほぼ完全に抑制することが確認されています。
(それ以外のものではさほど効果がなかったようで、アトロピンの一部成分が毛様体筋に影響するのではないか?と考えられています)
実際に「強く調節力を奪う」という点眼を続けることはとてもリスキーで、近くを見る為に常にメガネが必要になるという生活困難の問題と、副作用の問題、そして「リバウンド」の問題を含んでいます。
実際にトライアルでは多くのリバウンドが確認されたようです。
そこで、アトロピンの濃度0.01%点眼という道が考えられました。
元々1%濃度の点眼が強力に調節力を抑制しましたが、これを100倍に薄めた0.01%にすることで20%程度の調節力抑制をします。
子供の調節力は高いので、その程度減っても生活自体に大きな不便さはありません。
眼軸延長は15歳~16歳前後には落ち着くと考えられています。
その頃までに根気強く点眼を続ければ、平均60%程度の近視進行抑制ができたということです。
実際に台湾では既にアトロピン点眼の近視治療が行われているそうです。日本ではまだ認可が下りていませんが、個人輸入で扱えること、アトロピンそのものは昔からある安価な薬剤であることから、医師個人の判断にて自己負担の適応外処方をされている医院が、日本でも既に多数存在します。
そして残念ながら、延びてしまった眼軸を縮めることはできないようです。あくまでアトロピン点眼は、抑制をするものであって、縮めるものではないのです。
強い近視に“なりそうな”子供に使うことに意味があります。
低濃度アトロピン点眼薬「マイオピン」
シンガポールより個人輸入されている場合が多い
紫色光線の近視抑制
一方で2016年、慶應義塾大学医学部研究室は、「バイオレット光(360~400nm)が近視進行を抑制する」という論文を発表しています。
PDF:「現代社会に欠如しているバイオレット光が 近視進行を抑制することを発見」
英語原文:「Violet Light Exposure Can Be a Preventive Strategy Against Myopia Progression」
これは、紫色光線を通すコンタクトレンズと通さないコンタクトレンズの装用による比較ですので、眼そのものに紫色光線を受けることが近視進行抑制に繋がるということです。
紫色光線の定義は「380~450nm」ですが、当該論文の紫色光線の定義は「360~400nm」になっており、これは多くの「紫外線カット」を謳う製品がカットしてしまう範囲ですので、そもそも「メガネを掛けている近視の人は、この範囲の紫色光線を受けていない」ということになります。
(紫外線ケアを謳っている製品はいわゆるUV380製品に相当するので、紫色光線を少し通していると考えることもできます)
400nm前後の紫色光線の定義がとても曖昧なのは、同じヒトといえど個体差がある為、「可視光線としての紫色」と「不可視光線としての紫色」の境目が人によって違い、場合や業界によって定義が異なる為です。
その論文を受けて、JINSでは早くも「一部紫色光を透過するレンズ」を発売しています。
ちなみに慶応義塾大学の他研究室では、2014年にJINSと「JINS PC ®が眼の網膜視細胞に及ぼす光障害を抑制」という共同研究の発表をしています。
こちらでの「青色光」の定義は「380~495nm」。ちょっと被っています。
ブルーライトをカットする有用性については、また別の項で取り上げるということで……
累進レンズによる調節力抑制
アトロピン点眼以前には、累進レンズによるトライアルが各大学で行われていたそうです。
+1.50加入の累進レンズ(上部が遠く用度数、下部に手元用度数が入っている遠近両用のレンズ)を実際に小学生に使用してもらうことでのトライアルでした。
こちらはおおよそ抑制効果15%程度。
累進レンズによる抑制の問題点は、
・度数が進行する度にレンズを替えなければならない
・子供ゆえにフレームを変形させたりズリ下がっていても平気な状態でいることが多い
・なかなか指示通りにはレンズを使いこなせない
が考えられます。
ひょっとすると、上手に丁寧に使える子供の場合には、より高い効果が得られるかもしれませんが、それが労力に見合ったものかというとなかなか難しいですね。
実は昔の眼科医である所先生という方から、視力バッチリの矯正(完全矯正に近い値)にするよりも、低矯正(0.6~1.0程度)にする方が近視の進行が抑えられるという提案がされ、それに倣い古い眼科医ほど今も低矯正の眼鏡処方箋を書き続けているということがあります。
実際にはメガネトライアル等からは、むしろ低矯正の方が近視進行が早くなったという結果が出ています。
理由は明確になっていませんが、過去のトライアルとの違いを考えると単に「平時から調節力を使わないようにする」ということ自体が、イコール抑制に繋がるというわけではないようです。
ちゃんと遠方もキレイに見えつつ、手元への調節をどうコントロールするか?ということなのでしょうね。
屋外活動の時間
紫色光線の近視進行抑制が発見されるより随分前から、屋外で遊ぶ時間が長い地域の子供の方が、近視の発現が少ないという調査結果は存在していました。
しかしその原因は憶測どまりで、当時はよくわかっていませんでした。(身体に太陽光を受けることに意味があるのか、眼に受けることがいいのか、あるいは遠くを見る機会が増えることが予防に繋がっているのか……?)
しかし後の慶應義塾大学論文がそれを裏付けることになります。
少なくとも一要素として、眼内に紫色光線を受けることが挙げられます。(それ以外に、遠方を見る機会が増える=水晶体を薄くする時間を増やすということも大事な気はします)
となると、太陽光を受けるダメージが気になる……となってしまいますが、何も赤道直下を野ざらしの状態で何時間も過ごせというわけではないのですから、一日1時間2時間の外遊びのダメージくらい許容してもいいと思います。大人でも日焼け止めを塗らずに出る人なんてザラにいますから…。
確かに紫外線は多くの病気の原因になりうると言われますが、逆に沢山の効果も得られます。
近視進行を抑える意味
素人目には「-6.00の近視を-3.00に抑えられたとして何の意味があるのか」と感じるかもしれません。
近視進行を抑えるメリットはいくつかあります。
・万が一の時にメガネが失くなっても、ぼんやりと人や道が認識できて歩ける
・レンズの厚みが抑えられる
・結果眼が小さく見える度合いを抑えられる
・強度近視で一部の眼病のリスクが上がるのを防ぐことができる
レンズの厚みや眼が小さく見える現象については、コンタクトレンズで避けることができます。
しかし重度近視では、「緑内障」「網膜剥離」、その他眼球の変形(変性近視)による視力低下を含めた状態のリスクが上がります。
meganeccoの個人的な体感として
調節力制御によって眼軸の延長を阻止したとしても、16歳を超えてからの眼軸延長が一切ないかというと、そんなことはありません。
ハタチを超えていても、近視が強くなった人を多く見ました。
その人達の多くは「最近スマートフォンを見る時間が増えた」と言いますし、実際にスマートフォンを見ている姿を確認すると、かなり近い(眼前25cm以下)です。
「近視が進んだ」と言う子供に文字を書かせると、大抵は「眼の前20cm以下で」文字を書きます。また携帯ゲームも同様の距離で遊んでいます。
(親御さんにその旨を伝えると大抵は「言っても聞かない」と返されますが……)
そんな「近視の進んでいる子」の中には、親御さんに尋ねると「アトロピン点眼もやっている」と返されることがあります。
逆側の話だと、知り合いやお連れの方などを観察していると、眼のいい人・近視の値が安定している人は、本を読むにも字を書くにも、長く距離を取られているという印象です。
少し歳を取った人の場合は老眼のせいでということもあるでしょうが、それだけでは説明できないようにも思います。
これは私個人の観察で確認できただけの範囲に限るので、具体的な数値や実地が取れている話ではありませんから、ただの印象で眉唾程度なのですが……
やはりこれまでどおり生活習慣による変化も大きいと、私は個人は(眼の医学的なことについては素人ですが)考えています。
メガネを掛けないということ
子供の近視を気にされるお父さんお母さんは、どうして気にされているのでしょうか。
世の中には本当に色々な人がいます。
親御さんの中には、
「私自身メガネが好きじゃないから子供には掛けさせたくない」
「子供は見えてるって言ってるから」
「あんたメガネ似合わないね」
ということを呪文のように子供に吹き込む人もいます。
過去に見た子供の中には、初めてのメガネが「左右 -7.00」という子がいました。これが最初のメガネというのは本当に驚愕の値です(まず最初からは使えません)。
普通は「-1.50」くらいから見辛いことに気付きメガネを作ることが多いです。
どうやらそれまで母さんが「メガネ? やあねえ、全然似合わないし可愛くない」というようなことをおっしゃっていたようですし、子供側もそれを受けて「メガネを掛けるのは嫌、まだ見えている」という反応をしていたのでしょう。
それ以外にも、挙動から「結構な近視だな」とわかる雰囲気の子供を連れたお母さんが、「やっぱり似合わないね」「まだ見えるよね」と連れ帰る場面が多数ありました。
メガネを嫌う人の問題は、その後更に見えなくなったからとメガネを求めても、視力が出なくなってしまっていることがあるということです。レンズで補正をしても視力が出ない状態を「弱視」と言います。
見えない状態をずっと放置し続けるということは、弱視になる可能性を自ら上げているということなのです。(もちろん、すべての人が弱視になるとは限りませんが……)
「ちょっと見辛いな」という人の中には、「でも度数を上げれば見えるようになるでしょ」という思い込みをしている人が沢山います。
そういくら説明をしても「もっと度を強くして」と頑なに主張し続ける、わからず屋の大人の人も沢山います。
何度か書いてきましたが、「近視」「遠視」「乱視」という状態と、「眼のパフォーマンス」の問題は、まったく別です。
ただの近視のことを弱視とは言いません。近視の人がメガネを掛ければ視力1.2見えるのであれば、それは眼が悪いとは言わないのです。
googleで検索すると、自分自身がメガネを嫌う為、自分の子供の視力が低下しているにも関わらず「とにかくメガネを避けたい」と間違った方向に奮闘する人のブログが閲覧できます(私の見たお母さんのブログでは、書かれていることが本当にめちゃくちゃでした)。
お父さんお母さんの心配や苦労、心労はわかりますが、その被害は誰でもない子供に降りかかります。
見えなくなってからでは遅いのです。