・水晶体が硬くなっていく現象です
・水晶体を厚くできなくなる結果、近くを見られなくなります
人の顔を正面から見た時に黒目に見える部分は、周辺が「虹彩」と言います。よく見ると放射線状に筋のようなものが入っているのがわかると思います。
その中央は穴が開いていて、この穴を「瞳孔」と言います。
瞳孔のサイズは可変(大きさが変えられる)で、まぶしい時には虹彩を調整して小さくサイズを絞り、光の入る量を調整します。意識的にサイズを変更できる人は、たぶんいません。
そしてその穴の奥の方にあるのが、「水晶体」です。実際には中は暗くて「そこにある」という感じには見えませんね。
もくじ
水晶体の働き
遠くを見る時には引っ張られ、近くを見る時には弾性で“戻る”
全景は見えませんが、この水晶体は物を見る時の距離に応じて、厚さが変わっていきます。
この「厚みが変えられる度合い」が、歳を取るにしたがって減って行きます。正確にはこれを老視と呼んでいます。
水晶体はタンパク質でできたプラスチックのようなもので、とても弾性があり、ぐいーっと引っ張った後も、離せばすぐに元に戻ります。これが、遠くを見る時、近くを見る時の反応です。
つまり近くを見る時には、水晶体を力で押して分厚くしてるのではなく、自然と元の厚さに戻るのを待っているのです。
老視(老眼)は老化現象である
しかしその水晶体も、経年でプラスチックが硬化していくように、年数を追うごとに硬くなっていきます。硬くなれば、厚みを自然に戻せる度合いも減ってしまいます。
老視(老眼)という老いの進行は、40代くらいになると「なった」「なった」と皆さん騒がれる感じがありますが、この硬化は、実際には子供の頃から始まっています。
それ以前の歳には「見たい所が見えるだけの力に加えて余分があったから、減っていても問題がなく気付かなかっただけ」のことです。
年齢による水晶体の変化
人は、赤ちゃんの頃なら本当に「眼のまん前」に焦点が合わせられました。(ただしその頃は眼がまだ不完全でぼんやりとしか見えていないはずですが…)
小学生くらいで眼前5cmくらいまで平気で合わせられますし、20代になっても10cm前後くらいまでは合わせられます。
30代になると少しずつ、14cmで見えたのが15cm、16cmと遠くなっていきます。このくらいに変わってきても、眼に関わる勉強をしている人や極度に近方を見る人以外は、ほとんど気づきません。
多くの人は40代を迎えて初めて「あれ?」とその変化に気付くのです。
その為でしょうか、初めて老眼鏡を使う人には「老眼鏡を使い始めたら急に進んだ」ということをよく言われます。それはもちろん、今まで自覚がなかっただけですね。
年齢ごとの調節力の推移 80代にはほぼゼロになります
どんどん「可動範囲」は狭くなる
歳を取るほど「水晶体の厚みを調節できる幅」が狭くなります。
70代にはほぼゼロになっていき、良好な眼なら遠くは見えるが少し近くになるともうボヤけてしまうという状態になります。
40代、50代なら、プラスレンズで少し補正をし、あとは「持ち前の調節力を使えばもう少し手前まで見える」という合わせ方ができます。
なのである程度の範囲でなら「兼用の手元用」というメガネもできます。
歳を取るほど老眼鏡で見える距離の幅も狭くなる
しかし、そのように作ったメガネも、歳を取るほど「水晶体の可動範囲が狭くなっていく」わけですから、いずれは「作業の距離に合わせたメガネをそれぞれ用意しなければならない」となっていきます。
実際には人ひとりが必要とする作業距離はそんなに沢山はないでしょうから、例えば「テレビ用メガネ」「新聞を読む・字を書くメガネ」という程度の分け方になると思います。
その掛け替えが面倒な場合には、例えば「遠近両用メガネ」「中近両用メガネ」という選択がされます。
作業をする距離の平均
書いたり読んだり、趣味の作業を手元でしたりという行動は「近方作業」「近業」と呼ばれます。
だいたい30cm~45cmくらいの距離が近方作業の距離になります。
趣味ごとの種類によってはもう少し近くなることも遠くなることもあるでしょう。また、同じ「小説を読む」という行為でも、人によって慣れた距離、好ましい距離というのは違ってきます。
また、検眼の時に「だいたいこの位の距離のはず」と店員さんに測ってもらった、その値が実は「ちょっとズレていた」という場合もあります。
そういうケースを避ける為、できることなら普段見ている種類の本や作業のアイテムを、メガネ屋さんに持って行って試される方がいいでしょう。
もしくは、自宅にて「作業の距離」を定規やスケールで計測し、メガネ屋さんに伝えるという方法もあります。
老眼の人のメガネ
遠くがよく見えている人の場合の老眼鏡は、「プラスレンズ」です。レンズの中央が分厚くなっている方のメガネですね。
いわゆる「既製老眼鏡」という商品があります。
これは「メガネ」というよりは「雑貨」の扱いで、100円ショップなどにも置いてあり、だいたい100円~3,000円くらい、よく見掛けるのは2,000円あたりで販売されています。
店頭ではだいたい+1.00~+4.00くらいの度数が、0.25~0.50刻みで揃えられています。(商品としてはそれ以下・以上の度数も存在します)
あくまで目安ですが
40代~ +1.00
50代~ +2.00
60代~ +3.00
このあたり前後で、自分のみたい距離が見やすいと感じる値を選びましょう。もし二つの間で同じくらいに見えて迷う場合は、度の小さい方で大丈夫です。
初めてでわからない人がよくされるのが、何度も違う度数のものを掛け替えて、更に手を伸ばしたり引いたりして対象を見ようとする行為です。
これは何度もやっていると、どんどんよくわからなくなっていきますのであまりオススメしません。
適当な度数でも、距離を変えれば見えます。
これは当たり前のことです。
度数が少し足りなければ、顔からより離せば見えます。
逆に少し強過ぎれば、顔により近づければ見えます。
ではなぜ皆さん度の違いにこだわるのか、それは実際に使ってみた時に「この距離で見えないとしんどいなあ」と感じる、その人固有の距離がある為です。
それは作業の種類によったり、見る文字の大きさによって違ったりします。いくらピントが合うとはいえ、小さい文字の読み物を遠くに持って読み続けるのは辛いでしょう。
皆さんの多くは「本を読んだり」「新聞を読んだり」「字を書いたり」を想定されるでしょうから、「見え所に手を動かしてみる」ではなく、「自分は普段どのくらいの距離でそれらを見ているか」を思い出しながら選んでみて下さい。
近視の人の「老眼」
近視の人の老眼鏡は、場合によります。
軽度の近視の場合、そもそも老眼鏡が不要な場合が多いです。
-2.00~-4.00程度の近視の場合、基本的に「外せば近くは見えます」から、別途手元用の老眼鏡はほぼ必要ありません。
しかし-4.00を超えるあたりから、近くは「近く過ぎて見辛い」となってきます。
-4.00の近視の人の場合で、おおよそ25cmくらいの位置がはっきり見え、それ以上はボヤけていきます。25cmの距離というのは、キモーチ近いかなあという距離ですね。字が小さめの小説なんかだと良い感じでしょうか。
それ以上の人の場合は、距離に合わせた「少し弱めのマイナスレンズ」ということになります。
50代で-6.00くらいの近視の人の場合、先の目安である「50代~ +2.00」を引いた「-4.00↓」くらいの値がだいたいの度数になります。
ということは、近視の人は基本的に「既製老眼鏡」を掛けても全然度数が違うので、「別に手元は見やすくなりません」。
(たまに自分のことをよくわかってらっしゃらない近視の人が既製老眼鏡を掛けて「これ見えないよ~」と言っているのを見ますが……近視の人が近視について詳しいとは限りません)
近視の人のメガネパターン
実際に近視の人が手元用の老眼鏡を作られるケースは、そこまで多くはない印象です。よくいらっしゃるのは、
「外せば割と見えるから毎回外す」派
いちいち外すのが面倒なので「遠近両用メガネを使う」派
稀に「跳ね上げメガネを使う」派
強い近視の人になると、
「遠く用メガネと手元用を使い分ける」派
「遠近両用メガネと手元用を使い分ける」派
「遠近両用メガネと中近両用メガネを使い分ける」派
「遠近・中近・更に手元専用を用意する」派
……というように、色々なパターンがあります。
どれが正解ということではなく、その人の求める生活スタイルに合わせて選ぶしかないという所ですね。
遠近両用メガネは便利ですが、残念ながら「どこもかしこもキレイに見える万能メガネ」というわけではないので、それ一本あれば良いという感じでもないのです。なので手元をちゃんと見たいという人ほど手元専用(単焦点)を用意されます。
(一応電気的な処理をしてレンズ度数の変更ができるメガネが開発されていますが、実用化はもう少し先のようです)
遠視の人の「老眼」
遠視の人は元々「プラスレンズ」を掛けるので、手元が見たいという場合には「更にプラスのレンズ」を使うことになります。
前述の目安度数から考えると、例えば50代の人が普段遠く用に「+3.00」のメガネを掛けている場合は、更に「+2.00↑」した「+5.00↑」のレンズが必要になります。
普段からメガネを掛けている遠視の人だと、既製老眼鏡を掛けても「値が足りなくて見えない」となります。むしろ遠く用に既製老眼鏡の値が丁度いいくらいになってしまいます。
隠れ遠視の人
中には「弱い遠視に気付いていない人」も存在します。
その場合、同世代の人よりも少し強めの既製老眼鏡を掛けないと上手く見えないという結果になりがちです。
それを「自分は老眼が早い」と勘違いするケースもあります。
実は歳を取ると遠視傾向になりがち
老眼は老眼としてさておき、実は「歳を取ると遠視寄りになる傾向にある」のです。
身近な年上の人を例に浮かべるとなんとなくわかるかもしれませんが、歳を重ねると身体全体が少し縮んだような、細胞が委縮したような状態になります。大部分が体内に埋まっている眼球も、実は少ししぼんでしまいます。
その為歳を取ると「近視が弱くなった」という人がいます。
そのような加齢による「眼球の縮小」と「老眼」は、見えづらくなるという意味では近い感覚ですが、実はまた別の問題なのです。
これを「老人性遠視」「加齢性遠視」と言います。
○○ルーペがあれば平気?
本家からいわゆるパクリ品まで、1,000円~10,000円までの幅広い商品が存在する、掛けるタイプのルーペ。
拡大率にもよりますが、あれら「ルーペ」と「老眼鏡」は、基本的にやっていることは同じです。
光学的には、同じ度数なら同じ倍率で像は拡大されるのです。
(1.85倍で+3.25、1.6倍で+2.50、1.32倍で+1.25の度数のレンズになっています)
それでも「これはルーペです」と販売するには、おそらく理由があるのでしょう。(心象やセールスの問題、申請の問題等)
メリットとしては、少なくとも本家商品は
・とても丈夫
・レンズ面積が広い
・保証が手厚い
・メガネの上からも掛けられる
というあたりでしょう。
本家の場合、レンズ設計が良いという説明がされています。
デメリットを敢えて挙げるなら
・明視域(キレイに見える範囲)が自分に丁度いいかはかなり微妙
・倍率低いタイプでも度数にすると結構強めなので過剰な矯正になりがち
・掛けてる所がびっくりするほどダサい
・眼とレンズの距離が長くなりがちで、顔を動かすとクラクラと違和感がする
さも「万能」のようにセールスされていますが、○○ルーペ系もメガネと同じように「どの距離も良く見える」というような商品ではありません。それでもCMの印象からか、お年取られた方が○○ルーペを掛けてまわりをキョロキョロしては「見えない」とおっしゃっているのを見ます。
見たい距離、やりたい作業に合う度数(倍率)なら、もちろんちゃんと使えます。
既製老眼鏡のデメリット
安価に購入できる既製老眼鏡にも、やはりデメリットはあります。
左右の度が同じ
例えば実は普段意識しないけれど、左右の眼に差があるという人。
普段遠くを見る分には裸眼で全然問題ない状態でも、左右同じ度数だけ矯正をし手元を見ようという時には、違和感が出る場合もあります。
そういう人にとってはちゃんと左右の眼を測り、メガネを作られる方が良い場合があります。
調節があまりできない(あるいは出来てもしてもらえない)
安価な既製の商品なので、あくまでパッケージそのままを販売するという形態です。
顔に合っていない場合も、そもそも商品的に調整ができないか、あるいはできてもサービスに含まれない(メガネ一式の販売とは訳が違う為)ということが多いです。
実際には要望すればサービスでやってもらえることもありますが、前提ではないのでおざなりでしょう。
瞳孔間距離(PD)が一定
眼と眼の間のことを「瞳孔間距離」と言います。
この距離は当然人それぞれ違い、レンズの光学中心はこの瞳孔の真正面にあることが望ましいです。
少しズレていてももちろん見えますが、真正面とは見え方が少し違い(プリズムの発生)、そのズレによってしんどくなる人、違和感がある人が出ます。
既製老眼鏡はこの瞳孔間距離が平均的な値で一定の為、どうしても合わないという人がいます。
できれば老眼鏡もオーダーが望ましい
既製老眼鏡でも全然しんどくならない、問題が無いですという人には、安価に購入出来てすぐ使える既製老眼鏡はとても良い商品です。
しかしもし「しんどくなってしまって長時間は使えない」という場合には、是非メガネ屋さんで老眼鏡を作ってみて下さい。
使いやすさが全然違うと思いますよ。