昨今、ブルーライトの有害性について色々と言われています。
そして、そのブルーライトをカットするという「ブルーライトカットレンズ」は、本当に有用なのでしょうか。
もくじ
ブルーライトカットレンズとは
ブルーライトカットレンズの仕様は各社色々ですが、概ね
・ブルーライトをカットする「自称透明レンズ」(反射)
・ブルーライトをカットする「少々色つきレンズ」(吸収)
・UV420カットレンズ(+ブルーライトカット)
・UV420以上のカットレンズ
加えて「何パーセントカット」という説明がされていると思います。
ブルーライトカットとUV420の違い
カット率についての表記には実は2種類あります。
業界は従来、なぜかイギリス規格に準拠してカット率を表記していたようですが、実はイギリスでは規格そのものが随分前に廃止されています。
日本には2005年に規定されたJIS規格(T 7333)が存在し、最近ではそちらでの計測結果を小さい文字で「JIS規格では何%」と書かれているのをよく見ます。
イギリスで廃止された理由は不明ですが、ISOやJISとの違いは範囲や計算式、係数の違いではないか?と個人的に想像しています。イギリス規格の方が数値が大きくなるので、日本のメガネ業界は好んでそちらの優先して今も表記している様子です。
JIS表記に移行したいものの他社製品よりも数値が低く見られる……という懸念から、今の段階ではある意味チキンレースのようなことをやっているのかな?というのがmeganecco個人の見解です。
ブルーライトカットレンズの特徴
一般的な透明レンズに比べると違いがあります
色が付いているように見えます
クリアタイプを謳っていても、反射しようが吸収しようが、青色光をカットする為にレンズを通した視界と通していない視界では少し色が違います。
光線を吸収するタイプは素材そのものに色が付きます。その上から使いやすい色に調整がされているレンズもあります。
種類によりますが、大別すると黄色・茶色っぽいレンズと、青っぽい・薄紫っぽいレンズとがあります。
また種類によってはやたらとピカピカ反射するレンズになったりもします。
紫色・青色光の範囲を一部カットします
全部の青色部分をカットしてしまうと真っ黄色の世界になってしまいますから、カットされるのはあくまで一部です。
高いカット率であればあるほど「世界が黄色っぽく」見えます。その為「高ければ高いほど良いモノか」については、それぞれでしょう。
商品としてブルーライトをカットするのは間違いないです。
(中には詐欺的なレンズの商品もあるかもわかりませんが……)
完成品とオーダー品があります
100均ショップや雑貨屋さんなんかにも置いてある完成品の既製メガネとしての商品と、メガネ屋さんでオプションとしてオーダーするレンズとがあります。
完成品はそれこそ100円から数千円まで、メガネ屋さんの場合 +3,000円~+5,000円くらいの追加料金でレンズの換装ができます。メガネ屋さんのオーダータイプでは、もちろん度が入れられますが、度無しのレンズもあります。
ブルーライトと大層に言いますが
メガネ業界がなんだか大層にカタカナにしているだけで、ブルーライトが指しているものは単純に「青色光」のことです。
太陽の光、照明、それらを受けて青色や白色に見える物体すべて、「青色光」が含まれます。
「可視光線」は、人間に見えている光の範囲のことで、範囲は定義に寄り前後します。
これは、例えば個体差(人によってそれぞれ)、あるいは人種・地域差により、実際には「見える上限・下限に差がある」為だそうです。
可視光線の範囲(単位:nm)
可視光線のうち、
紫色光が「380~450nm」
青色光が「450nm~495nm」とJISでは定義されるようです。
一般的にブルーライトと呼ばれる範囲は概ね、紫色光と青色光を含んだ範囲で、380~500nmを指しているようです(上図:破線の四角部分)。
青色光は特別なものではない
先の通り、ブルーライトとは何も「特別な光」ではないのです。
太陽の光、照明、それらを受けて青色に見える物体すべて、「青色光」が含まれます。
七色(日本人的には)のスペクトルの中に白色は含まれていません
上記の通り、可視光線のスペクトル範囲には「白色」はありません。しかし私達の日常には「白色の光」「白色の物体」が溢れています。太陽光そのものも、いうなれば「白色」ですね。
小学校中学校の図画工作・美術の授業であった「光の三原色」を思い出してみて下さい。
赤(R)、緑(G)、青(B)の三色の輪が重なり、中央が白色になった図です。
例えばライトにこの三色のカラーセロハンを被せ、壁に投影して重ねると本当に白っぽくなります。
デジタルでイラストを描く人ならRGBの重なりはもっと身近なものだと思います。これがRGBカラーです。
恐怖のブルースクリーン?
青空を思い出してみて下さい。
子供の頃、大人の誰かに「なぜ空は青いのか」と質問したことはありませんか。私個人の記憶では、大人の誰にも本当の答えを教えてもらえなかったような気がするのですが……
空が青いのは「レイリー散乱」、太陽からの光が、観測する自分との間にある空気中の分子などにぶつかって、特に青色が散乱、結果青が一番強く見える為です。ですので本当は他の色々な色も見えているはずなのです。
言うなれば青空は「ブルーライト全開のスクリーン」と言えます。
でもなぜかメガネ業界は「青空を見ることは身体に悪い」とは説明しません。
青色光は短い波長で空気中では散乱しやすく、あまり遠くまでは届きません。
その為、太陽との距離が長くなる夕方になると、眼に青色光は届かず、代わりに長い波長……可視光線の反対側の色である赤色側が見えるようになります。なので夕方には空が赤色に見えるのです。
よく言われる液晶画面
「液晶画面はブルーライトがたくさん出ている」という説明を受けた事があるかもしれません。
しかし前述通り、映像上で白色を表現するには、光の三原色が当然必要です。なので白色に発色させることができるアイテムは基本的に青色光も放出します。
問題は「液晶画面だけが特別多く出しているか」という所ですが、昔のブラウン管と比べると輝度そのものが上がっているであろうことから、増えてはいると思います。それはつまり「再現力が上がっている」「発色がよくなっている」(技術の進歩)ということでもあります。
例えば情報として出されている液晶画面のスペクトルグラフなんかは、計測された環境をよく見るべきです。輝度を最高に上げ、白画面または青色画面一色で計測すれば、青色光検出度はとても高くなります。
ずっと真っ白い画面・青い画面を見続ける人は、あまりいないでしょう。
そもそも「テレビやモニターが明る過ぎる」と感じる人は、なにより本体の設定で「輝度」「コントラスト」を調整し、自分の眼にしんどくない明るさに変更しましょう。設定が自分の眼に合っていないのです。
ただ設定を変更するだけで「ブルーライト」は減ります。
LED照明は?
最近で照明の革命が起こったのは、青色LEDが開発されて以降です。それ以前はというと、ガス灯や白熱電球の発明でブレイクスルーが起きています。
LED照明とそれ以前の蛍光灯とを比べると、確かに光源のスペクトルに偏りがあります。青色光とそれ以外とを組み合わせて発色させるLED照明だと、どうしても青色部分が強めに検出される傾向にあります。
しかしそれが身体に有害というほどのリスクがあるかというと、基本的にほぼ同等とみなして良いようです。
まぶし過ぎる、しんどいという方は、種類の工夫をされるとよいと思います。
紫外線・青色光線の有害性?
紫外線は悪、日焼け止め必須!眼にも入れてはいけない!という情報が定着して久しいです。
確かに紫外線は有害なものですが、本当の意味の有害な部分の紫外線は、大気でカットされて地球には降り注ぎません。
それ以外の、日常的に私達が受けている「紫外線」は、確かに「老化」させたりダメージを与えたりする有害ではあるものの、反面メリットもある光線でもあります。
もちろん沢山浴びることは勧められませんが、ビタミンDの生成、体のリズムの調整、気分転換などに日光を浴びるという活動は、やはり必要でしょう。
紫外線と紫色光の境目は?
そしてその紫外線の隣りである、紫色光・青色光部分は、紫外線の延長として有害なのではないか? というの昨今のメガネ業界の見解(あるいは眼科界隈)のようです。
紫外線も紫色光線も、同じ光波であり、少しずつ波長が変わるというだけでその境目は明確には存在しません。単に人間に「見えるか・見えないか」の定義であり、紫外線が有害と定義されるのならば、それを超えればパタリと無害になるとは、確かにちょっと思えませんよね。
そもそも光は「有害」です
生命体は生命活動をする上で、呼吸し、食物を摂り、動き、睡眠し、そして老いてきます。
呼吸すれば身体は酸化し、消耗します。食べればエネルギーを得、活動が続けられますが、内臓が動き筋肉を動かしということそのものが、いわば身体の消耗です。
耳も同様に、大きな音を聞き続けると聴覚細胞が傷付き聞こえづらくなったり、歳を取ると他の感覚と同じように細胞は衰えていき難聴になります。
眼は光を眼内に取り込み、自分自身の周りの像を脳に伝達します。
もちろんその活動の間に視覚周辺の細胞はいくらか消耗し、老いていきます。
そして生きていれば老いに向かい、やがて生命は活動を停止します。
いうなれば、生きることそのものが「有害」なのです。
問題は、生きている上で「何をメリットとして」「何をデメリットとするか」という所だと思います。ブルーライトを気にしている人の中にタバコを吸う人はいくらでもいらっしゃるでしょう。
光源を気にするあまり、あまりにも色の付いたレンズを日常的に使い続けなければならない、暗いモニターを見続けなければならない、ごく僅かな光源を頼りに生活しなければならない、そんな生き方の方がしんどいのではないでしょうか。
ブルーライトについて検索していくと、例えばJINSさんと慶応義塾大学の共同研究論文に辿りつくことができます。
そのうちのひとつ、「ブルーライトをカットすることで視細胞の死滅を減らせた」というものがあります。細かくは触れませんが、要するに「減らせた」という所がポイントです。
青色光の範囲だけがダメージをになるかのような説明を散見しますが、そもそもそれ以外の波長からのダメージが一切ないかというと、そんなことはないのです。
ならば、すべての光を遮断して眼を閉じて生活をしましょうか。そんなことは無理ですよね。
「HEV」について
たまに「HEV」という名称の波長を説明するメガネ屋さんがあります。
HEVとは一般的には「高エネルギー可視光線」をいい、眼科周辺で定義されている語のようです。high energy visible lightの略でその範囲は「380~530nm」(紫から青の範囲全体)としています。
しかしレンズメーカーの東海光学さんは、high energy violet lightと表記されています。
その範囲は東海光学資料によると「400~420nm」(紫光の一部)を指しているようで、どうやらレンズメーカーと眼科周辺とではそもそも語の意味が違うようです。
また「HEV」の範囲を「400~420nm」として説明しているのは東海光学さんくらいしか見つけられません
(その後追随するように他メーカーさんがHEVという語を使うようになりましたが、明確にhigh energy violet lightと書いている会社は見受けられませんでした)
「HEV」をカットすることによって「予防できる」と謳われている眼病は、「白内障」や「加齢黄斑変性」あたりが挙げられます。ちなみに東海光学さんは「HEVをカットするとルテインの減少を防ぐことができる」としていますが、いくら検索してもルテインとの関連についての文献を辿ることはできません。
そもそも「白内障」は80歳にはほぼすべての人が多かれ少なかれ患う「老化」です。プラスチックが経年劣化で硬くなるのを想像して下さい。
加齢黄斑変性も、その名の通り加齢による老朽化、また遺伝による所も大きく、紫外線青色光線だけが原因とは言えません。
ルテインとは確かに無関係ではない
CMなんかでもやっているカロテノイド「ルテイン」、このルテインは眼底や水晶体に分布して眼内に入ってきた「青色光」を吸収します。(具体的には420nm~470nm前後を吸収するようです)
ちなみに眼底に存在しているカロテノイドはルテインだけではありません。
そのルテインの仕事に助力するという意味では、ブルーライトカットメガネは有用かもしれませんが、メガネ屋さんの言う青色光が実際に加齢黄班変性などの原因になっていうという明確なエビデンスはまだありません。原因となる遺伝子の報告はなされていますが……
(ちなみに世の先生方の中には、お金を貰えば広告に出てくれる人が結構いるので、医師が言うから間違いないとは残念ながらなりません。その証拠に商品の説明文をよくよく読むと、非常にどうとでも取れる・因果関係については実は触れていないような文面で書かれてあります)
UV420とブルーライトカットとの違い
「UV380」「UV400」という表記を日本で最初に始めたのが一体どこなのか、色々探したり聞いたりしてみましたがわかりませんでした。少なくとも15年以上前から使われています。
表記の参考にされたのはどうもオーストラリアの規格のようですが、細かくは不明です。
頭の「UV」は「ウルトラバイオレット(ultra violet)」の略であろうと思いますが、そうなるとそもそも「UV420」という表記は矛盾します。
JIS定義で言えば380nmまでの見えない波長部分を指しています。
実際には400nmあたりまでしか見えない人もいるので、概ね紫外線とは「~400nmまで」とする業界が多いでしょう。
つまり「420nm」は紫外線ではなく、完全に可視光線の紫光部分になります。しかしメガネ業界は、商売的な意味のわかりやすさ優先で「UV420」という謎の表記を生み出しました。
下のグラフは、青い折れ線がUV420のカット率になります。
下の横軸を見て頂くと、特に420nmあたりまでを大きくカットし、その後450nmあたりからはカット率ひと桁程度に移り変わり、UV400と変わらない状態になります(レンズ自身の物理的なカットのみと予想できる)。
縦軸:光線透過率 / 横軸:nm(ナノメートル)
緑色の折れ線がブルーライトカットレンズのカット率になります。
UV420と比べると400~420nmあたりのカットが少ないですが、420nm以降を比べるとこちらの方が500nmまでまんべんなくカットしているという印象です。
店頭で説明を受ける際に「サンプルのレンズに青色光ペンライトをかざしたものを見せられる」ことがあると思います。
あのペンライトは光線としては405nm前後のものなので、そこに赤線を入れると……
この位置になります。青色光の中でも短波側のペンライトで、そこだけを切り取ればさも「UV420の方がよくカットする」ように見えるわけです。
そのようなデモンストレーションでは青色光のカット率を正しく説明しているとは言えません。
また、商品としては緑色の折れ線と青色の折れ線を組み合わせた「UV420+ブルーライトカット」という商品も存在します。
結局ブルーライトカットレンズは有用?
健康についての影響はまだまだ判断が難しいレベル……
カットすると細胞の劣化・死滅が減った、という論文はあります。しかし論文とは、発表されればそれが絶対的エビデンスになるかというと、そんなことはありません。
昔々、PC普及などに伴って「電磁波が身体に悪影響」という言説が世間に流れた時代がありました。
その頃には「電磁波防護エプロン」や「電磁波カットフィルタ」、「カード」、「コンセント」などなど沢山のグッズが販売されました。
世間的には「ジョーク」「詐欺的」だったと認識されていると思いますし、今日びモニターの電磁波など誰も気にしてはいないでしょう。(そういう症状の人は存在しますが、原因はわかっていないようです)
最終的にそういうタイプのアイテムになる可能性もあるし、そうではない可能性もあります。今の段階ではどちらとも言えないのです。
しかしメガネ業界・レンズ業界としては「付加価値として売れる良い鉱脈を見つけた」という感じなのでしょう。
電磁波カットと決定的に違うのは、それぞれの商品はちゃんと「青色光部分をカットする製品」であるという部分でしょうか。
私個人は、当該レンズについてはあまり眼病予防などの効果に触れず、「明るさの調整、まぶしさを整える為にはオススメ」といつも説明しています。あまり褒められる販売員ではありませんね。
(尋ねられればエビデンスとしてはまだ論文が出たレベルと答えますが…)
まとめ
メリット
・まぶしさが抑えられる(実際に通る光量は減る)
・将来的に眼病が予防できる……かもしれない(結局エビデンスはまだないと言って良い)
デメリット
・視界が黄色っぽくなる
・レンズにちょっと色が付く(黄・青)
・あるいは通常レンズよりもコートがピカピカする
お世話になります。
私は,半年ほど前から某メガネチェーン店で販売員として働き始めた新人です。
まだまだ勉強中なのですが,今回の内容は大変参考になりました!
質問なのですが,「UV420とブルーライトカットとの違い」の項で示されているグラフのソースはどこなのかご教示いただけないでしょうか?
こんにちは。
ソースは書いた当時の、主に東海光学のルティーナで説明されている分光グラフなどを参考にしました。他社製も似た値になっていると思います。
UV420という名称を最初に出したのは恐らく某チェーン店で、他メガネ屋やメーカーが一部それに追随し、UV420という名称がある程度定着したのだと思います。どこの業界もこういうことはあります。
数か月前に眼周辺の学会共同でブルーライトカットレンズについての共同声明が発表されました。大きくは子供についてデメリットがある可能性が考えられるという内容ですね。
一部削ることで眼に届く光量が減るという面は見方によってはメリットかもしれません。しかしそれが何に対してどう有効なのかというと……?